災間の災害復興の課題と可能性【2022年度学会大会 分科会1 概要報告】
宮本匠(大阪大学大学院人間科学研究科)
「災間」とは、東日本大震災の後に、社会学者の仁平典宏氏が提唱した概念で、東日本大震災の後の社会を「災後」とみるのではなく、次に来たる大災害との間である「災間」と考え、災害によってもっとも困難な立場におかれる人々をどのように支えることが可能かという視点に立って、社会全体を見直し、つくり変えようという呼びかけである。本分科会は、この「災間」という言葉を、災害と災害との「間」というよりも、災害の「間」(なか)を生きる時代、つまり災害が頻発し、短期間のうちに何度も被災するような時代とも捉えて、災間の時代の災害復興にどのような新しい課題が生じるのか、さらにはそのように困難な状況にあっても、どのような可能性を見出すことができるのか、議論を行った。
共通するキーワードは「ゆらぎ」だった。災害の「間」(なか)を生きる時代の災害伝承とはどのようなものか。これまでのような復興が難しいのだとすれば、教訓におさまることがない、災害後の人々のさまざまな「葛藤」をすくいとるような伝承がますます大切になるのではないか。あるいは、復興過程において、当初に掲げた復興像を絶えず反省しながら「修正」していくことが求められるのではないか。このような「ゆらぎ」は、文化人類学では「境界状況」と整理され、ある集団で何かしらの新しいアイデンティティを獲得する際の「通過儀礼」においては、日常の役割や価値観がひっくり返る混沌とん状態が用意されるという。
このような議論は、これまで研究会で検討してきた「中動態」概念にも通ずるところがある。「助ける—助けられる」という「能動/受動」ではなく、誰が助ける側で誰が助けられている側なのかが曖昧となり、全体として「助かる」ような状態。研究会設立のきっかけとなった、佐賀県武雄市(2019年、2021年と同じ地域が水害で2度被災)では、支援者か被災者か、といった線引きではなく、ひとりひとりの人間がそれぞれにできることを持ち寄り、支え合う場が形成されている。
災害が頻発し、しかもその被害が大きなものとなり、また被害も広域化する。すると、被災地と被災地の間で助け合いのリレーを行うというよりも、複数の被災地が並走しながら、互いに支え合うようなモデルも考えていく必要がある。ここにも、支え合うという「中動態」的な関係を見ることができる。
「災間」の時代の災害は、これまでの災害対応が前提としていたさまざまなことをあらためて問い直すように思われる。研究会では、これからも災間の災害復興に取り組んでいる現場に学ぶということを第一としながら、それをさまざまな言葉で表現を試み、災間の災害復興からどのように「次の社会」を構想することができるのか、考えていきたい。
※本分科会は、日本災害復興学会研究会の助成(2022年度~2023年度)を受けて開催している「災間の災害復興研究会」の研究成果を報告するものです。研究会のメンバーは、稲垣文彦、岡田憲夫、小林秀行、鈴木隆太、立部知保里、野坂真、山崎真帆、頼政良太、宮本匠。