東日本大震災 会長声明

日本災害復興学会・会長声明

会長 室崎 益輝
2011年4月8日

 このたびの東日本大震災に巻き込まれた犠牲者の皆さまに心より哀悼の意を捧げるとともに、すべての被災者の皆さまに心よりお見舞い申し上げます。

 今回の大震災は、マグニチュード9.0という巨大な海溝型地震とそれによる大規模な津波が引き金となって、福島の原発事故を含む極めて深刻な被害が、東北地方を中心とする東日本全体に発生しています。巨大・広域・複合災害として日本の国全体が危機に瀕する状況がもたらされています。それだけに、国をあげて持てるすべての力を発揮し、被災者の救済と被害の軽減を迅速にはかり、社会の安定につなげなければなりません。そのためにも、叡智や財源を含むすべての人的あるいは物的資源を、効果的かつ集中的に被災地等に投入しなければならない、と考えています。

この中で、もっとも深刻かつ過酷な状況に置かれているのは、いうまでもなく被災者です。行政の対応能力を超える被災の発生に加えて、情報途絶などによる初動時の対応の遅れなどにより、必要な支援が得られない状況の中で、健康を害する被災者が相次いでいます。この被災者の置かれている状態を看過せず、被災者の生活と生業の再建を最優先に取り組まなければなりません。この点においては、被災者の基本的人権を堅持した緊急措置として、被災者の立場に立った災害救助法の適用や罹災証明の発行、緊急生活支援金などによる早急な支援を要請いたします。
加えて、被災者と被災地の再建の展望が見えないまま、被災地コミュニティも崩壊の危機にあります。この状況にあって、被災者に希望を与える復興のビジョンとプログラムを具体的に示すことが急がれています。これについては、被災者の意見を十分に聞きつつ、専門家の責任あるアドバイスも得て、防災面だけではなく生活や生業さらには環境などを十分に考慮したものを提示することが、急がれます。

さて、「前例のない事態には、前例のない対応をはかる」必要があります。これには、一回りも二回りも大きな復興の構えを作ることも必要ですが、既存の復興制度を抜本的に見直し、今回の被災の実態に応じた新しい制度を作っていかなければなりません。

以上の現状認識のもと、日本災害復興学会としても、あらゆる手立てを講じて救援と復興の支援に取り組む決意です。関連学協会や組織と連携して、被災者と被災地の皆様の迅速で適切な復興を、息長く支援してゆく決意を新たにしています。

なお、復興制度とそれに基づく公共事業については、私ども学会が掲げる「復興の17原則」(添付資料参考)に基づき、積極的に提言や提案を行うとともに、その実現に向け総力を挙げて行動する所存です。

参考 復興に向けての17原則

日本災害復興学会 法制度部会策定
東日本大震災における復興のあり方についての提言―復興に向けての17原則の提示

 2011年3月11日、東日本大震災という未曾有かつこれまで予測さえできなかった災害を経験することになった。これまでも、我々は幾多の自然災害に遭い、多大な犠牲を代償に数々の教訓を得てきた。その教訓から、以前、あり得べき復興理念を明文化すべく「災害復興基本法案」を提唱した。そこで掲げられた復興理念を東日本大震災において実現させるべく、「復興に向けての17原則」をここに提示することにした。

 「復興に向けての17原則」は、これまでの教訓から抽出された普遍的な原則であり、東日本大震災においても十分に通用しうるものであって、復興に関わろうとしているすべての人々に対して将来的な復興像・復興プロセスを提示するとともに、立法機関に対して立法指針として、行政機関に対して解釈・運用指針として、司法機関に対して解釈指針として機能する原則である。

 今後は、以下の「復興に向けての17原則」に掲げられた理念の実現に向けて、さまざまな方面に向けて行動をする所存である。

原則その1 復興の目的

 復興の目的は、自然災害によって失ったものを再生するにとどまらず、人間の尊厳と生存基盤を確保し、被災地の社会機能を再生、活性化させるところにある。

原則その2 復興の対象

 復興の対象は、公共の構造物等に限定されるものではなく、被災した人間はもとより、生活、文化、社会経済システム等、被災地域で喪失・損傷した有形無形の全てのものに及ぶ。

原則その3 復興の主体

 復興の主体は、被災者であり、被災者の自立とその基本的人権を保障するため、国及び地方公共団体はこれを支援し必要な施策を行う責務がある。

原則その4 被災者の決定権

 被災者は、自らの尊厳と生活の再生によって自律的人格の回復を図るところに復興の基本があり、復興のあり方を自ら決定する権利を有する。

原則その5 地方の自治

 被災地の地方公共団体は、地方自治の本旨に従い、復興の公的施策について主たる責任を負い、その責務を果たすために必要な諸施策を市民と協働して策定するものとし、国は被災公共団体の自治を尊重し、これを支援・補完する責務を負う。

原則その6 ボランティア等の自律性

 復興におけるボランティア及び民間団体による被災者支援活動は尊重されなければならない。行政は、ボランティア等の自律性を損なうことなくその活動に対する支援に努めなければならない。

原則その7 コミュニティの重要性

 復興において、市民及び行政は、被災地における地域コミュニティの価値を再確認し、これを回復・再生・活性化するよう努めなければならない。

原則その8 住まいの多様性の確保

 被災者には、生活と自立の基盤である住まいを自律的に選択する権利があり、これを保障するため、住まいの多様性が確保されなければならない。

原則その9 医療、福祉等の充実

 医療及び福祉に関する施策は、その継続性を確保しつつ、災害時の施策制定及び適用等には被災状況に応じた特段の配慮をしなければならない。

原則その10 経済産業活動の継続性と労働の確保

 特別な経済措置、産業対策及び労働機会の確保は、被災者の生活の基盤と地域再生に不可欠であることを考慮し、もっぱら復興に資することを目的にして策定、実行されなければならない。

原則その11 復興の手続

 復興には、被災地の民意の反映と、少数者へ配慮が必要であり、復興の手続きは、この調和を損なうことなく、簡素で透明性のあるものでなければならない。

原則その12 復興の情報

 復興には、被災者及び被災地の自律的な意思決定の基礎となる情報が迅速かつ適切に提供されなければならない。

原則その13 地域性等への配慮

 復興のあり方を策定するにあたっては、被災地の地理的条件、地域性、文化、習俗等の尊重を基本としつつ、社会状況等にも配慮しなければならない。

原則その14 施策の一体性、連続性、多様性

 復興は、我が国の防災施策、減災施策、災害直後の応急措置、復旧措置と一体となって図られるべきであり、平時の社会・経済の再生・活性化の施策との連続性を考慮しなければならない。復興の具体的施策は目的・対象に応じて、速やかに行うべきものと段階的に行うべきものを混同することなく多様性が確保されなければならない。

原則その15 環境の整備

 復興にあたっては、被災者と被災地の再生に寄与し防災・減災に効果的な社会環境の整備に努めなければならない。

原則その16 復興の財源

 復興に必要な費用は、復興の目的に資するものか否かを基軸とし、国及び地方公共団体は、常に必要な財源の確保に努めなければならない。

原則その17 復興理念の共有と継承

 復興は、被災者と被災地に限定された課題ではなく、我が国の全ての市民と地域が共有すべき問題であることを強く認識し、復興の指標を充実させ、得られた教訓は我が国の復興文化として根付かせ、これらを教育に反映し、常に広く復興への思いを深め、意識を高めていかなければならない。

以上

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