趣旨

 災害復興学という学問領域は、まだ存在しません。私たちは簡単に「災害からの復旧・復興」と口にしますが、「復興」についての定義すら定かでないのです。ですが、わが国には狭い国土に2000もの活断層がひしめきあい、108もの活火山が手ぐすね引いて次なる活動に備えています。台風、竜巻、雪害、地滑り、さらには陸と海とのプレート境界から送りだされる津波と、古来、この列島は自然災害によって傷めつけられてきました。

 関連死なども含め公式死亡者6434人を超える犠牲者を出した阪神・淡路大震災では「都市化が災害を進化させる」ことを知り、新潟県中越地震では過疎化が進むムラの復興に巨額の公費を投じる意味を論じました。孤独死、二重ローン、震災障害者、県外避難、関連死……。震災は悲しい言葉をたくさん生み落としました。しかし、私たちは長い間、「自然には勝てない」とあきらめてきたのではないでしょうか。もちろん、新潟地震の反省から制度化された地震保険、羽越水害の悲しみの中から生まれた災害弔慰金法、阪神・淡路大震災の被災地の叫びが実現させた被災者生活再建支援法と先人たちの知恵と努力で結実した支援の仕組みもわずかながら存在します。

 首都直下地震、東海・東南海・南海地震という巨大地震の発生を前にいま、私たちは被災地の体験を共有し、教訓を紡ぎだして制度とし、社会の枠組みを捉えなおす作業を始めなければなりません。それがKOBEの仲間たちが生み出した「被災地責任」なのだと考えます。しかし、ことは容易ではありません。壊れたまちを、ムラを、人生を再建するのです。被災した地域を、打ちのめされた人々を再起させるための制度論、運動論、価値論、そして、なにより具体的な制度設計をするための技術論も必要なのです。

 法律学、行政学、金融・財政学、地方自治論、都市計画、社会学、歴史学、保険学、医学、看護学、建築学……と、あらゆる学問を総動員しなければなりません。NPO・NGO、メディア、コンサルタント、そして行政の現場でがんばる人たちの力も必要です。私たち、災害復興学を志す者は単に座して研究するのではなく、被災からの再生に取り組む人たちと手を結び、被災現場からのメッセージを全国に、次世代に伝え、やさしい社会を創りだすために力を尽くしたいと考えています。ぜひ、みなさま方の知恵とお力をお貸しください。

発起人一同
2007年吉日

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