災害復興における越境的な対話の場の可能性と課題-みやぎボイス10年の取り組みから-【2022年度学会大会 分科会5 概要報告】
石塚直樹(東北学院大学)
2012年より宮城県において継続開催してきた東日本大震災復興支援シンポジウム「みやぎボイス」は開始から10年が経過し、回数も10回目を数えた。みやぎボイスの特徴は、被災者、支援者、専門家、行政などが立場や専門性を越えて集い、テーマに基づくラウンドテーブル形式の対話により、生の声を共有し、記録することにある。これまで様々なテーマによる対話をしてきた一方、みやぎボイスそのものについて議論されることは少なく、その価値や捉え方は各々の認識にとどまっている。みやぎボイスについて議論することは、災害復興における越境的な対話の場の在り方を見いだすことにつながるのではないか。本分科会では、みやぎボイスの企画者、登壇者、聴講者、また参加した事が無い方も交えたラウンドテーブルディスカッションにより、「みやぎボイスの何が面白いのか」について対話した。まとめることは難しいが、出された意見の一部を紹介したい。
まずひとつは、「話がかみ合うことが重要ではない」ことの面白さだ。あるみやぎボイスの登壇者は、企画者から事前打ち合わせでその旨を伝えられ、最初は「(シンポジウムなのに)何を言っているんだ…」と思ったが、実際に参加してみて納得したという。2時間半あるみやぎボイスのセッションは、拡散はされるものの、集約はせず、結論も出さない。むしろ、安易にまとめることを避けてきた。多くの登壇者と聴講者は、着地しないモヤモヤ感を抱えたまま帰ることになるが、広がり続けた議論の中から、それぞれの手がかりをつかむことができる。
ふたつめは、「情報を共有することが目的ではない」ことの面白さだ。災害復興においては、情報が共有されていることが重要となり、そのための会議が行われる。しかしその一方で、情報共有が過剰になった時、その場の「人間っぽさ」は失われるのではないか。みやぎボイスは参加者が持つ情報ではなく、一人ひとりの声(ボイス)の共有に着目した対話の場であり、毎年繰り返し集まることで再会や新たな出会いもある。このことにより、「人間っぽさ」を有した対話の場となり、結果として、声を通した情報も共有されている。
三つめは、「誰もがそうだと納得できる客観性を重視した企画・登壇者構成にしていない」ことの面白さだ。みやぎボイスの企画は、復興の現場に立つ企画者個人の主観やごく個人的な興味関心に基づいている。そもそも、災害復興において、誰もがそうだと納得できる一つのことなどあるのだろうか。建築家や研究者、実務者などの企画者が、議論しながらそれぞれのテーブル企画を進めることにより、様々な方向にベクトルが伸び、結果として、みやぎボイス全体としてはある程度の客観性を有する(ごちゃまぜの)場となっている。
紹介した内容に限っていえば、「現場に立つ個人の主観や興味関心に基づいて企画し、一人ひとりの声を交わす内容とし、結論は出さない」ことがみやぎボイスの面白さであり、災害復興における越境的な対話の場に向けたヒントを含んでいるのではないだろうか。引き続き、みやぎボイスの実践と研究を通し、考えていきたい。
登壇者
手島浩之氏(建築家・日本建築家協会東北支部宮城地域会)、宇都彰浩氏(弁護士・宮城県災害復興支援士業連絡会)、増田聡氏(研究者・東北大学大学院経済学研究科)、澤田雅浩氏(研究者・兵庫県立大学減災復興政策研究科)、石塚直樹(実務者・東北学院大学地域連携センター)。そのほか9名のゲストよりコメントを頂いた。

