被災地間でつなぎたい経験をバトンで表現する
石塚直樹
(東北学院大学地域連携センター 特任准教授)
「何故、我々専門家の言うことが聞けないのか。」東日本大震災からの復興に向けた会議での、ある関西圏の災害復興の専門家の発言です。東日本大震災からの復興に関わる支援者として参加していた私は、高圧的な言い方に違和感を持ちながらも、何も言えずにいました。その時、東日本大震災による被災当事者であり、被災者支援にも従事している方が口を開きました。「現場がそれ(なぜ言うことが聞けないのか)を言われたら、うるせえってなりますよ。」と。
災害からの復興においては、過去の災害復興によって培われた経験や、経験から得られた教訓は有益な情報になり得ます。この時の専門家の助言内容は、今振り返れば、有益で正しかったのかもしれません。しかし、この場においては、正しい教訓は結果として継承されませんでした。考え、決めるのは誰か。伝え、支える側はどう在るべきか。そして、その間のコミュニケーションはどうあるべきか。私自身も、過去の災害復興(新潟県中越地震)の経験を携えて東日本大震災からの復興に関わらせて頂いてきた一人として、これらの問いが常に頭の中にありました。
東日本大震災から10年が経過した2021年11月、みちのく復興・地域デザインセンターなど5団体主催によるオンラインシンポジウム「東日本大震災で生まれたレジリエンス 受け継がれるバトン」が開催され、私もディスカッションのコーディネーターとして参加しました。阪神・淡路大震災などの以前の災害復興の経験から、東日本大震災は何を託されていたのか。東日本大震災から10年が経過し、これからの東北・全国の未来に何をつなぎたいのか。これら2つを「バトン」と表現し、東日本大震災からの復興やその支援に携わる当事者が、専門家と一緒に振り返り、バトンの内容を考える機会です。
議論の結果、10点ほどのバトンが表現されました(表をご覧ください)。住民が主体であること、他者を理解すること、積み重ねにより信頼関係を構築することなど、過去から受け継ぎ、未来につなぎたいバトンがある一方、県域を越える支援体制整備など、東日本大震災から始まる新たなバトンもありました。
バトンの特徴は、渡す走者と、受け取る次走者がいて初めてパスが成り立つことです。ここで表現された未来につなぎたいバトンは未だ完成していません。考え、決めるのは誰か。伝え、支える側はどう在るべきか、の問いに立ち返り、今後も次世代や事前復興に取り組む未災地との対話の場を通し、一緒に考える機会を模索していきたいと思います。
バトン1 (3.11以前から3.11へつなごうとしたバトン) | バトン2 (3.11から未来へつなぎたいバトン) | |
テーマ1: NPOの活動と役割 | ● 阪神・淡路大震災以降、NPOの発生と拡大が進んできたが、東日本大震災は、NPOがいきなりより大きなステージに踊りだされた出来事だった。NPOというセクターがどう変化するのか、どう役割を果たしていくのかが、東日本大震災からの復興に渡されたバトンだった。 | ● 信頼をベースにした繋がりの中で、顔の見える人たちに向き合うことによって、被災者の主体性が引き出され、当事者性(例えば、被災住民自らの手で希望を持って未来を創ることが出来るんだという思い)が生み出される。 ● NPOは信頼関係のもと、当事者との協創や多様な状況に対して問いを立てることなどによって、つむぎ役や要になることができ、これらのことは平時からの積み重ねにより力が発揮される。 |
テーマ2: 地域コミュニティ支援 | ● 阪神・淡路大震災は支援の仕組みが無かった。被災当時者自らが受援する中で支援の在り方を考えてきた。阪神・淡路大震災以降、支援の仕組みは充実したが、受援の仕組みは整っていないと感じていた。地域性も異なる中で、東日本大震災へは、被災当事者が主役にならないといけないということをどのように伝えるか苦労した。 | ●住民主体の地域コミュニティ(住民自らが地域をデザインすることなど)を文化として根付かせる。 ● 災害により長期化する広域避難に対し、県域を越える地域、コミュニティへの支援体制を整備しておくこと。 |
テーマ3: セクター間連携 | ● 阪神・淡路大震災以降の災害ボランティア・災害ボランティアセンターの発展により、量の問題はクリアしてきた。一方で、質の向上を図らなければいけないと議論していた中で東日本大震災が発災した。東日本大震災へは、質の向上(支援者の独りよがりではない支援)をどうするか、お互いを認め合いながら連携できる体制をどう整えられるかが、渡したバトンだった。 | ● 他者を理解し、他者へ期待しすぎず、話し合いの場づくり、学びの場づくりを地道に重ね、小さな成功体験を生み出すこと。 ● 震災復興という目的を失った連携や場づくりはいずれ無くなる。多様化する地域課題への対応、次の災害への対応のためにセクターを越えた関係づくりを平時から進めること。 ● つなぐ人が重要であること。 |