新たな災害研究のあり方を探る ―新興感染症流行下における若手研究者の活動を通して ― 【2020年災害復興学会 オンライン分科会3 報告】
小林秀行(明治大学)
本分科会は、若手災害研究者による有志の研究ネットワークである「大規模災害に備える若手減災ネットワーク」が、コロナ禍における若手研究者の試行錯誤の過程を整理したものとなる。分科会では、前半に「コロナ禍における調査の模索と実践」としてオンライン・インタビュー調査の速報など4報告が、後半に「パンデミック下の若手研究者」として前半の視点を拡大する形で、若手研究者の研究・教育・キャリア形成のこれからを検討する4報告がなされ、それぞれに活発な議論を展開した。
前半の調査報告においては、主として東日本大震災の被災地において、コロナ禍は物理的被害をともなわないことから単純な災害としては捉えられていないことが指摘された。どちらかといえば、リーマンショックなどのような経済危機の効果と、人々の関係性を強化/阻害する自然災害の効果の複合物として存在している可能性が示され、その中でも特に経済被害という点では商店の休業や貧困世帯の状況悪化が、目に見える形で起こり始めている深刻な状況が見えていることも指摘された。
後半では、コロナ禍における若手研究者の経験として、接触機会の減少により知識を得る機会が減少していること、調査計画立案および実施の困難になっていること、雇用の不安定性による経済的不安が増加していること、被災直後の調査が困難になっていることなどが実体験として語られた。こうした苦境が共有されたうえで、オンライン・インタビューやオンライン・合宿、調査地に居住する地元研究者の可能性など、コロナ禍だからこそ見えてきた新たな可能性についても、様々に指摘がなされた。
これらの議論のなかでは、昨今、一般社会で用いられ始めた“New Normal”という言葉にも焦点が当てられ、この言葉がオンライン化の開かれた可能性を示すものでありつつ、Social Distanceの徹底を求めるという分断の言葉でもありえたことが指摘された。現実に我々が実践してきたことは、Social Distanceの徹底というよりはむしろ、Social Distanceはどこまで接近することが可能かという模索であり、“New Normal”という言葉の規範化がむしろ、社会の不自由さ・窮屈さを高めている可能性も述べられた。