復興計画の不変と可変 −ニュージーランド・カンタベリー地震の被災地から−
石原凌河(龍谷大学政策学部)
ニュージーランド南島の最大都市であるクライストチャーチ市に2022年6月から8月末まで滞在していました。クライストチャーチ市は、2010年9月4日からの断続的に発生したカンタベリー地震の被災地です。2011年2月22日に発生したM6.3の地震では、日本人を含む185人が犠牲となりました。地震によりクライストチャーチ市内は壊滅的な被害を受け、特に市中心部(CBD地区)では約80%の建物が全壊し、壊滅したCBD地区に再び都市機能を取り戻すことが急務となりました。こうした状況下で、クライストチャーチ市中心部復興計画が2011年に策定されました。この計画では、CBD地区の再生像が提示され、それを実現するための10つのプロジェクトが計画されました。震災によって高層建物の安全性が問題視されるようになり、高さ制限の導入が復興計画に盛り込まれました。その後、市民からの意見を踏まえて、2014年に復興計画が改訂されました。改定後の復興計画では、35,000人が収容できるスタジアムの建設、バスターミナルの整備、国際会議場の建設などハード整備に偏重した16のプロジェクトが推進されることになりました。
震災から10年以上が経過し、ニュージーランド全土での深刻な住宅高騰・住宅不足を受け、「2022年住宅密集法」が可決されました。この法律に基づいて、郊外の乱開発の抑止と中心部へのコンパクト化を推進するために、復興計画で規定された高さ制限は大幅に緩和されることになりました。
一方で、改定後の復興計画で推進されたスタジアムは、2022年度に整備完了だったのが、2027年度に遅延することとなりました。建築資材のコスト増により、整備費用が当初の5億3,300万NZ$から6億8,300万NZ$に跳ね上がり、市民や議会からの反対意見が上がっているものの、建設が白紙に戻ることはないようです。
高さ制限の導入という復興計画で定めた理念が社会情勢によって「可変」していくことは致し方がないことであり、スタジアムの建設という復興計画に規定されたプロジェクトを「不変」とするのも致し方がないことかもしれません。いずれにしても、長期的に及ぶ巨大プロジェクトを復興計画に位置づけているために、「可変」となっても、「不変」となっても社会に対する負の影響は大きくなってしまいます。クライストチャーチ市中心部復興計画の事例から、短期・中期で実現でき、規模は大きくなくとも手応えのある漸進的な復興計画のあり方を検討する必要があると考えます。