中高生・大学生が福島復興に関わり、語るのを応援するために
辻岳史
(国立環境研究所 福島地域協働研究拠点 主任研究員)
福島県の三春町にある国立環境研究所福島地域協働研究拠点で、2011年の福島第一原子力発電所事故(以下、「福島原発事故」)で放射性物質による汚染の被害をうけた地域の災害復興に関する調査研究をしています。ご縁があり、福島県内の学校など、中高生・大学生に福島原発事故のお話をする機会があります。
ここ5年ほど、講演を担当している福島県内中学校の出前授業で感じていることです。先生方は、「生徒は放射線や復興の取り組みについて知識がなく、難しい講演内容は理解できないと思うので、知識がなくても体験できる内容にしてほしい」とおっしゃることが多いです。しかし講演後のアンケートをみると、多くの生徒は自然科学・社会科学の専門用語を含む講演内容を理解しています。そして講演からどんな知識を得たかというだけではなく「危機感をもった」「胸が苦しくなった」「驚いた」など、自身が感じたことを表現してくれます。次第に私は、生徒を「災害のことをわかっていない人」のように扱って、忖度して易しい内容にしたり、教えるべき知識を選別したりしないよう心がけるようになりました。
高原耕平さんは、1995年の阪神・淡路大震災発生時に0歳~3歳で、震災学習をうけてきた若者へのインタビュー調査から、彼らは「自分自身の感受性によってかれら固有の「震災」を再構成する」と考察しています(参考文献1)。私は中高生・大学生と接するなかで、福島原発事故や復興に関する知識や考え方を提示しつつ、彼らの感性を触発することが大事ではないかと考えるようになっています。そうするなかで、彼らが福島原発事故という災害を再構成してもらえればいいと思っています。
2023年の1月29日に福島県大熊町で開催された「第11回ふくしま学(楽)会」に参加して、大学生とお話した際にはこう感じました。ふくしま学(楽)会は2018年から半年に1回開催されており、福島の復興について世代・地域・分野を超えて共に考える「対話の場」=「学びの場」です。大学生たちは「福島に関わってから日が浅く、福島復興の知識もあまりない自分たちが、よかれと思って発言・発信することで、誰かを傷つけてしまうのではないか」と話していました。この場に参加するために東京から大熊町まで足を運ぶ彼らですら、そう語るのです。小松利虔さんの言う「事情を知らないなら関わらないでほしい、もっと勉強してから関わって欲しい、ふまじめな言説はありがた迷惑だ」という「当事者性を盾にした排除の力」(参考文献2)が根強いことを感じました。
福島原発事故後の被災地復興には、さまざまな立場の方が関わるとともに、多様な語りが保障・許容されることが大事ではないかと考えています。災害復興研究を通じて、中高生・大学生の感性を触発し、彼らが福島について関り、語る心理的なハードルを下げたいと考えます。そのためには何を考えて、行動すればよいか。日本災害復興学会に関わる皆様の研究・実践から学んでいきたいです。
参考文献1:高原耕平(2020)「0歳児が語る阪神・淡路大震災:災学習世代の中間記憶と世代責任」『地域安全学会論文集』37: 89-96.
参考文献2:小松利虔(2018)『新復興論』株式会社ゲンロン.
参考記事:辻岳史(2022)「研究者と生徒がともに、福島の環境を取り戻すための知識や考え方を学ぶ[令和3年度郡山市立郡山第六中学校出張講座・講師派遣レポート]」『ふくしまから地域の環境と未来を考えるWEBマガジン「FRECC+」2022年2月28日配信(国立環境研究所福島地域協働研究拠点発行)https://www.nies.go.jp/fukushima/magazine/event/20211117.html