生活再建支援のための被災者調査の可能性と課題-「災害ケースマネジメント」実現に向けて【2022年度学会大会 分科会3 概要報告】
菅磨志保(関西大学社会安全学部)
東日本大震災以降、災害救助法に基づく被災者支援の限界を乗り越える試みとして「災害ケースマネジメント(以下、DCM)」の考え方に基づく支援体制づくりが注目されている。そして2016年の熊本地震以降、被災自治体における生活再建支援の拠点として「地域支え合いセンター」が設置され、被災世帯を巡回訪問する「生活支援相談員」が配置されるようになり、実質的にDCMを行う体制が作られてきた。
しかし、支援開始時に対象世帯の情報が集約されておらず、センターが開設されても支援活動を開始できないケースが多いことも問題視されてきた。効果的なDCMを行うためには、生活再建期の「入口」で、被災世帯毎の支援需要を把握すると共に、自治体が支援に必要な資源の総量を推計して、支援計画を立てる必要がある。しかし、この課題に焦点を当てた研究や実践は十分に行われているとは言えない。
登壇者らは、生活再建期の「入口」で被災者の支援需要を把握する調査(以下、アセスメント調査)を自治体から受託したり、被災者支援を行う民間組織が作成した活動記録の二次分析等に携わってきた。本分科会では、これらの調査の内容を共有した上で、DCMの考え方に基づく「被災者の個別の事情に合わせた支援」を可能にする調査のあり方、今後の課題などについて議論した。
前半の3報告では、ダイバーシティ研究所による5つのアセスメント調査が検討された。(図1参照)。
後半の2報告では、支援記録の二次分析や民間組織と連携して訪問活動時に質問紙を配り、被災者の記憶を記録化してGIS上で可視化することで、被害と避難行動の関係を検証する等、支援需要の予測に繋げる試みが紹介された(図2参照)。
最後に5つの報告を踏まえ、DCMの考え方に基づく「被災者の個別の事情に合わせた支援」を可能にする調査の在り方や今後の課題について議論した。
まず、組織を越えた連携が必要になるDCMを行うためには、関係組織間で支援需要に関する情報が共有されている必要があるため、生活再建支援に入る前段階で、実態調査を行っておく必要性が確認された。しかし同時に、被災地における調査環境は厳しく、調査費用を確保できる自治体も少ない。加えてコロナ禍が調査員の確保を一層困難にしていた。ただ、コロナ禍によって記入を簡易化した自記式調査票を開発したり、ICTを活用する試みもなされ、それらの可能性も確認された。調査の目的や精度を損なわず、かつ、できるだけ簡易に低コストで実施できる調査の方法を探ることが今後の課題として共有された。
次に、個人情報保護制度の壁があり、組織間で情報の共有・活用が進まないという課題については、少なくとも事前に災害時を想定した組織間連携を進めておくことで共有の可能性が高まることや、ワクチン接種時に収集された情報を被災者支援に活用できれば…といったアイデア・意見が交換された。非常時の視点から、平時に提供されている社会サービスの仕組みやそこに蓄積されている情報を点検し、その活用を考えていくことは、他の災害対応にもつながるかもしれない。同時に、これをいかに平時の取り組みの延長線上に設定できるか。平時の社会サービスとの連続性についても考えていく必要がありそうである。課題は尽きないが、今後も、被災者の困りごとの解決に少しでもつながる支援の在り方について考えていきたい。
※本分科会で紹介した調査の多くは、厚生労働行政推進調査事業費補助金(研究代表 浜松医科大学・尾島俊之教授)を受けて実施しました。記してお礼申し上げます。
登壇者
田村太郎(ダイバーシティ研究所)
中村満寿央(ダイバーシティ研究所)
静間健人(東日本大震災・原子力災害伝承館)
坪井塑太郎(人と防災未来センター・RF)
企画者・文責
菅磨志保(関西大学 社会安全学部)