「3.11からの独り言」はじめました
宮本匠(大阪大学大学院人間科学研究科 准教授)
「3.11からの独り言」という取り組みを始めています。これは、宮城県名取市閖上地区で被災した宇佐美久夫さんが「久夫の独り言」と名づけて始めたものにインスパイアされたものです。災害からこれまでのことについて、印象に残っていること、心に引っかかっていることを、川柳のようにおおよそ5・7・5の短い言葉にして表現するといういたってシンプルな取り組みです。シンプルなのですが、これがなかなか奥が深く、いろんな可能性を秘めていることがわかってきました。
震災から10年を前にした2019年、みやぎ連携復興センターの石塚直樹さんらが、支援者や専門家など被災地の外の人の目線だけではなくて、被災者の視点から復興をふりかえることができないかと、おつきあいのあった地域の方々に声をかけて「当事者による復興省察研究会」をはじめました。宇佐美さんも研究会のメンバーの一人で、コロナ禍で研究会ができない中、まずは自分でできることをやってみよう、長い文章だと誰も読んでくれないから短い言葉にしようと「独り言」をつくりはじめました。
宇佐美さんの「独り言」をいくつか紹介します。
間仕切り出来たけど、安否確認、手間増えた
集会所、だけでは、同じ顔
震災、と無関係、な訳ないよ
炊き出しに、並ぶ、ご近所さん
復興感、再建違いで、格差あり!
前はなし、共益費は、何者だ
「頑張って」って、何を、頑張るの
「俺の海」って、どんな海
このように、「独り言」には、「間仕切り出来たけど、安否確認、手間増えた」のように、教訓につながるものもあれば、「『俺の海』って、どんな海」のように、教訓ではない、断片的な経験や思いも含まれています。
「独り言」は、被災者だけでなく、支援者も作成しています。こちらは、石塚さんが作成した「独り言」の一部です。
一つの正解、求められても、持ってません
正義の刃、当たらないよう、距離をとり
10年経ち、ようやく組める、櫓もある
う~ん、石塚さんの苦労がしのばれますね。
宇佐美さんが言うには、「独り言」の作成のコツは、「5・7・5にとらわれない」、「人に聞かせてやろうではなく、まずは自分に向けて」、「作品作りではない」、「きれいにしなくていい」、「思うがままでいい」だそうです。
「独り言」は、特に誰かに読んでもらうことを前提とせずに自分で作成してもいいですし、作成したものを持ち寄ったり、グループで一緒に作成する方法もあります。グループで作成するなら、テーマを決めて、例えば「仮設住宅」というお題で作成するやり方もありますし、誰かの「独り言」で連想したことに「独り言」で応えるような、連歌のようなやり方も可能です。
研究会のメンバーで何度か集まって「独り言」を作成してきてわかった特徴や「効能」がいくつかあります。まずは短いから作成するのがとっても容易なこと、また読者にとっても関心に応じて、ちょっと立ち寄ってのぞいてみる感覚で読めること。また当事者の中で意見が分かれるような事柄も、短文だと解釈の余地が残せるので言葉にしやすかったり、長々と話されると抵抗があることも、短いと「ああ、そう考えていたのか」と許容できること。解釈の余地があることで、短文なのにかえって豊かに世界を想像できること。教訓とか伝承の一歩手前にあるような、被災後の日常の瞬間を表現できること、そのことによって、作成した人の人となりを知ることができ、お互いの理解が深まること。
そして最後に、これが「独り言」を「研究」していくのにポイントになると考えているのですが、さまざまな「負い目」を「成仏」させることができること。「自分は家族は無事だったから」、「直後は県外に避難していて当時のことはわからなくて」というように、被災者の中にはさまざまな形で「負い目」を感じている人がいます。あるいは支援者にも「もっとやれることがあったんじゃないか」というように「負い目」を感じている人がいます。「独り言」はこのような「負い目」を言葉にしたり、誰かに聞いてもらうことで、「負い目」を消し去るわけではないのですが、それが個人の中にとどめられていた時よりも、少しだけ気持ちを楽にすることができるようです。
ということで、「独り言」にご関心を持たれた方、やってみたいけれどもう少し詳しく教えてほしいという方、ぜひぜひご連絡をお待ちしています。