コロナ禍で日本の小規模事業者らはどのように生き抜いてきたのか
大門大朗
(京都大学防災研究所、日本学術振興会、デラウェア大学災害研究センター)
「自分で事業してるって胸張って言えないですよね。国に生かされているというか。事業主としてのプライドはズタズタですよね。」
これは、居酒屋を経営しているある事業者が、インタビューの後につぶやいた言葉である。様々な問題を生んだ「コロナ禍」であるが、営業自粛や時間短縮、酒類提供の問題など、個人経営の飲食店にこれほどまでに焦点があたった災害はこれまでなかったのではないだろうか。
飲食店を始めとする小規模事業者は、災害時に割くことのできる人もお金も時間もそれほど多くはない。どのようにして小規模事業者は、コロナ禍を生き抜いたのか。この問いに答えるために、わたしたちは、コロナ禍の小規模事業者の状況を把握しようと、日本と米国でインタビュー調査を行ってきた。その中でわかってきたことの一つは、日本も米国の小規模事業者らも共通して、給付金などの制度やリモートツールの活用、事業方針の見直しなどをとして極めて柔軟にコロナ禍に対応していたということだ。
だが、対応の具体的な戦略は、日米で大きく異なっていた。米国では、従業員や自身への投資という意味で事業の「内」に目を向ける傾向にあったが、日本では、取引先どうしの助け合いという意味で「外」に目を向けることが優先されたからである。例えば、日本では、できる限り継続して卸先から商品を納入したり、近隣の飲食店や宿泊施設を利用したりするなど、取引先との関係を維持するために多くのリソースが割かれていた。このことも功を奏してか、日本の小規模事業者の減少はほとんど見られなかった。米国では減少幅は最大20%に達したにも関わらず、である。
けれども、パンデミックが長期化する中で、取引先との関係維持を目指す日本の小規模事業者らの戦略は、コロナ禍での変化を阻害することにも繋がりつつある。もちろん、このことは、精神的な意味で自らが事業主だという感覚を蝕む、宣言や要請の複雑な問題とも絡み合っている。冒頭で紹介した事業主のように、宣言や要請によって事業を止めなければならないのなら、新たなことをするよりも生きていくために制度を利用した方が良いからである。取引先との信頼関係や感染者の状況など考慮すべきことは他にもたくさんある。だが、小規模事業者のコロナ禍からの「復興」は、新たな挑戦を後押するための制度や仕組みといった社会のあり方をどのように整えていくかにかかっているかと言えるだろう。