東日本大震災復興意識調査から読み解く復興十年の現状と課題-住民・事業者・行政との共同討論【2021年度学会大会 分科会4 概要報告】
金子由芳(神戸大学)
東日本大震災復興の特色は、復興まちづくり事業が長きにわたる大工事となり被災者の生活復興を大幅に遅らせた点にあったとして、では復興十年を経て完成したまちは、被災者被災地にとって望ましい復興を遂げたのか。本分科会では、神戸大学都市安全研究センターを母体とする研究チーム(北後明彦代表)が、復興十年に臨んで岩手県・宮城県沿岸の浸水被災地16地区で実施した住民意識調査(配布7,895件、回収1,273件、回答率16.1%)の結果を報告し、ついで被災地から招聘した3名のパネラーとともに、生活復興・地域経済・コミュニティ復興をテーマに、将来の災害復興への教訓を掘り下げた。
本荘雄一(兵庫県立大学)は、本調査のうちとくに、阪神・淡路大震災後に生活復興感を把握する一手法として定着した「復興カレンダー」を中心に解析結果を報告し、被災者の生活復興感が、住宅再建のみならず生計に関わる経済的要因に既定される傾向を見出した。金子由芳(神戸大学)は地域経済の復興感に関する回答に焦点を当て、漁業・水産加工を中核とする地域ほど回答結果が低迷するなどの地域差に注目し、また商工会・漁協など地域経済を担う組織が行政過程に積極的に参与した地域ほど結果が高い傾向を指摘した。塩見有美(アジア防災センター)は震災後のコミュニティの復興状況について、震災前に比べたコミュニティ活動の大幅な減少、身近な小規模な活動へのシフト、既存団体の役割の後退、また将来取り組みたい活動として伝統文化の復活と新たなまちづくりへの期待が拮抗する傾向を報告した。
パネルディスカッションでは、豊田利久(神戸大学名誉教授)のコーディネートのもと、3名のパネラーによる復興十年の回顧から議論を進めた。宮城県南三陸町の復興行政を担った及川貢氏は、高台の住宅地域と低地の商店街が分離する現在の復興状況を紹介し、復興過程では何よりもまず住宅復興をとの行政側の思いから、地域の問題が後手に回る傾向があったと率直に語り、時間にゆとりのある平時からの総合的な事前復興計画の重要性を指摘した。岩手県山田町商工会元会長の阿部幸榮氏は、商工会として震災直後から苦労を重ねてビジョンをとりまとめ、住宅・商店街・交通などのまち機能が隣接しあう「生活街」構想として町行政に働きかけ、町側も商工会を頼って会長を商工業復興計画の座長を据えるなど、行政と商工会の連携による復興まちづくりの経緯を紹介した。宮城県石巻市かどのわき自治会長の本間英一氏は、元のコミュニティが災害危険区域と区画整理区域に分かれ、自身は区画整理地内に残された世帯と新たに建設された災害公営住宅の住民をとりまとめる新設の自治会を担う立場だが、震災前に住宅・商店・病院・郵便局等のまち機能を有して賑わっていた地域が今は住宅機能のみ分離し、本件調査結果に表れた同地区住民の復興感の低さとして表れたのではないかとした。議論を通じて、地盤整備と住宅再建で進められてきた日本の復興計画を、住民が生きて暮らしを立てる地域社会の総合的機能の復興のために再編する必要性、またそのために参加メカニズムの実質化が課題として示唆された。