勝手連のおせっかい
宮本匠(大阪大学大学院人間科学研究科)
佐賀県武雄市は、2019年、2021年と立て続けに水害に見舞われた。長い時間をかけて乾燥させ、ようやく新調した床を、残酷にも再び水が襲った。2019年の水害の後に、民間のボランティアセンターを運営したことをきっかけに設立された一般社団法人おもやいを中心に、今も支援活動が続けられている。2年で2度の被災、いちど被災したから、水に浸かった床をはがして、床下をまたしっかりと乾燥させなければならないことはわかっているけれど、新しくはったばかりの床をはがす決断をするのに逡巡がある、だから毎日通って、一緒に悩みながら丁寧に時間をかけて作業をしていると、ボランティアのひとりから聞いた。また、床をはがすことにためらっておられる姿を見て、実は1度目の被災の時にもそのような気持ちはあったはずだ、自分たちボランティアはそのような気持ちをきちんと汲みとっていたのだろうかとあらためて考えさせられた、とも聞いた。
「おもやい」には常勤スタッフだけでなく、日々代わり代わりに集って活動されている実に多様な人がいる。地元の武雄の人、佐賀市から通う人、福岡から通ってくる人、建築士、大学生、旅人。「団体」というより「勝手連」の印象だ。さまざまな活動をしているが、特に行政の支援の外側にこぼれてしまった人を支えようとしている。制度自体の不備や申請主義により、困難な状況にありながら孤立してしまう人々がいる。そのような人々と、行政や地域住民を介したり、物資を配布する場など多様なアプローチを通してつながり、支えている。「支えている」といっても、具体的には、「○○なおばあちゃんいたよ」、「じゃあとりあえず女性用の下着とかいるね」、「ばあちゃんなら緑茶の方がよか」、「ごはんよりおかゆの方がいいんじゃない?」、「りんごジュースはあんまり好きじゃないんだって」、「え!私が行ったときは好きって言ってたのに」、「薬はちゃんともらってた?」と、みんなでやいのやいの「おせっかい」をしている印象だ。
この「勝手連」が「おせっかい」をしている場が、なんとも温かく、心地よい。だから、勝手連が途切れることなく、むしろ広がっていくというのもわかる気がする。
災害の頻度が増え、被害も大きくなり、また広域化するという傾向は残念ながら加速しそうだ。そのなかで、武雄のように、短期間のうちに何度も被災してしまうような地域が今後も生まれてしまうのかもしれない。これまでの災害対応や制度の前提から考え直さなければならないことがたくさん出てくるのだろうと思うが、武雄のような「勝手連」が「おせっかい」をするような場をどうつくれるかが鍵になるように思う。