伝承と備えのバトンを次世代に
須藤宣毅
(河北新報社防災・教育室部次長兼論説委員会委員)
この春、初めての教え子10人が、私のもとを巣立ちました。河北新報社が宮城県内の中学生を対象に2021年度から始めた「かほく防災記者」研修の1期生たちです。
東日本大震災は2021年3月11日で10年がたちました。時間とともに記憶は薄れ、当事者も少なくなります。だからこそ語り継ぐ意義が高まるともいえます。中学生は発生当時、2~4歳で、震災のことをよく覚えていない、知らない世代です。研修は震災10年の事業の一環で、震災を学び、伝承と防災の担い手を育てることを目的に昨年5月にスタートしました。
6月は震災で甚大な津波被害を受けた宮城県名取市閖上を訪問し、中学生だった長男を亡くした閖上中遺族会代表丹野祐子さんの話を聞きました。丹野さんは「命を守ることの大切さを次世代に語り継ぐため、伝承のバトンを受け取ってほしい」と呼びかけました。早速、研修生たちは家に帰った後、語り部活動をしました。丹野さんの体験と後悔、震災前後の閖上の様子などを、家族に自分の言葉で伝えました。
研修は話を聞くだけでなく、実践を重視しました。夏休みは非常持ち出し袋を作ったり、家具の転倒防止措置を講じたりと家庭の備えに挑戦。9月には地域のハザードマップを調べて、マイタイムラインを作成しました。10月から11月にかけては、家族と一緒に地域の避難先に向かう「私が主役の避難訓練」に取り組みました。
実践を重視した背景には、震災での自分自身の反省があります。私は2006年に防災士になり、その後、防災報道に関わってきました。「揺れたら頭や身を守る」といった備えの基本動作の原稿を何度も書いてきましたが、震災では揺れが続いている間、何もできませんでした。頭で分かっているだけでは不十分で、体験、実践しておく必要があるという教訓を得ました。
「防災記者」なので研修生は、原稿も書きます。考えを整理し、理解しなければ、文章で読者に伝えることはできません。研修生は試行錯誤しながら、被災地の視察や避難訓練といったテーマで、それぞれ4本の記事を朝刊に出稿しました。
特に避難訓練の取り組みと記事からは、研修生の成長ぶりが見て取れました。自分のことだけでなく、幼いきょうだいや近所の高齢者の避難のサポートを考えたり、日中とは勝手が違う夜間の避難や避難先が被災したと想定した2次避難を試したりと、豊かな発想と行動力で訓練に臨んでいました。
昨年度の研修生10人には今年3月、修了の証しに「かほく防災記者証」を渡しました。今後も防災・減災に取り組み、記事を書いてもらう予定です。研修は2022年度も継続し、2期生の中学生9人が参加します。中学生は今後、進学、就職を契機に活動の場がどんどん広がります。家庭はもちろん、学校、職場、地域で震災の教訓と備えを役立ててほしい。そんな期待を抱いています。