学会大会2024:ご挨拶~肝心なときに学者は何の役にもたたない
大会実行委員長
上村靖司
(長岡技術科学大学)
あの日から私の人生は大きく変わった。一応、「研究の専門は雪害です」と自己紹介はしてきたものの、ホンモノの災害というのものの当事者になったのは初めてだった。研究者ですなどと偉そうなことを言いながらも、雪害で犠牲になった方々を数字でしか追いかけてきていなかった。
晩秋の地震。世界でも有数の豪雪地帯。あらゆるインフラが壊滅的被害を受けた地域でいつもどおりの豪雪の冬を迎えれば、いったいどれだけ被害が拡大するのか。地震の1週間後に、実家のある被災地の惨状を目の当たりにし、背筋が寒くなるほど心配をしたのは3ヶ月後の真冬のことだった。
「学者は肝心なときには何の役にも立たない」。これから起きるであろう甚大な雪害をどうやったら軽くできるか。半世紀前の雪害対策の黎明期を支えた大先輩(国立研究機関の元所長)に、教えを請おうと電話をしたとき、ピシャリとこう言い放たれた。残念ながら、大きくうなずくしかなかった。
震災の翌冬、翌々冬、被災地はほぼ20年ぶりの豪雪に見舞われた。この2冬で、全国で238名もの方々が亡くなった。災害研究の究極の目的は犠牲者を減らすことのはず。やはり学者は実際に何の役にも立っていなかったのだ。
以降、何ができるというわけではなかったが、ただ「現場に出る」ことを心がけた。壊れたモノでなく、頑張っているヒトに目を向けるように心がけた。できないことを嘆くのではなくできることを拾い集めるように心がけてきた。
情けない研究者の一方で、人々は実にたくましい。毎年のように屋根に登って何トンもの雪を持ち上げて投げるという単純作業を繰り返し、家と暮らしを守ってきた。学者がリスクだのレジリエンスだの何だかよくわからない議論をしていることなどつゆ知らず、達人技を磨き上げ、ここで生き抜く力を育んできた。だから、震度7に襲われ、集落が完全に孤立しても、当たり前のように助け合って生き抜いた。
あれから20年。さすがに地域の大先輩達も弱ってきた。しかし、少数ながらもバトンを受け取った若手たちが奮闘している。ぜひ中越の「現場」に足を運んで頂き、20年の歳月とバトンの行方をその目でご覧いただきたい。
【大会概要】
11月8日(金)から10日(日)にかけて、2024年度大会を新潟県長岡市アオーレ長岡で開催します。振り返ると2009年(震災から5周年)に長岡技術科学大学を会場として大会を開催していますし、2014年(震災から10周年)には日本災害情報学会と合同の大会を今回と同じアオーレ長岡で開催してきました。中越地震から20年目の今年、今の中越地域の様子を皆様にも現地で感じていただきたいと思い、久しぶりのエクスカーションも企画いたしました。詳細は随時、学会HPやメーリングリスト等でお知らせいたしますのでご確認ください。
【開催方式】
今回の大会の研究発表では口頭発表を募集します。申し込み件数が多かった場合には、ポスター発表も検討いたします。すべてのプログラムは「対面」で開催します。2日目午後の公開シンポジウムは「オンライン配信」をする方向で調整しています。分科会については、ハイブリッドでの開催を計画しているものもあります。
【1日目:11月8日(金)】
午後に、中越地震被災地を周遊するエクスカーションを開催します。20年目の今、地域を盛り上げようと頑張っている若手のヒアリングを予定しています。
【2日目:11月9日(土)】
午前に口頭発表、午後に公開シンポジウムを開催します。口頭発表のプログラムは決まり次第、学会ウェブサイトで公開しますのでご確認ください。
公開シンポジウムの第1部では「能登からの声・能登へのメッセージ」と題して、能登地震被災地からの復興への取組と課題をお聞きし、それを受けて、過去に震度7を経験した被災地からのメッセージを届けます。なおこれは、昨年に北海道厚真町で開催された「復興まちづくりサミット」の第2回として位置づけています。
第2部は「中越地震20年記念シンポジウム」と題して、中越地震で壊滅的被害を受けた山間部の被災地を中心に、復興過程と地域の存続に向けた様々な取組について講演とパネル討論で意見交換を進めます。パネル討論には、地域で活躍する若手4人に登壇頂く予定です。
【3日目:11月10日(日)】
午前と午後にわかれて6つの分科会と全体会を行います。「能登半島地震の初動・応急対応、復旧段階における法制度上の課題」、「中越地震と能登半島地震を通して考える復興の現状と課題、学生参加の意義」、「 復興まちづくりサミット~現場のリアル編~」、「災害メモリアルのこれまでとこれから〜残し方、伝え方〜」、「被災地域と移住者―中越大震災と東日本大震災の事例から」、「復興プロセス研究会」が予定されています。夕方には6つの分科会での議論を共有するための全体会を開催します。
【交流会】
大会2日目(11月9日)の夕方、長岡グランドホテルにて、交流会を開催いたします。事前申込と事前振込をお願いしておりますので、ご協力をお願いいたします。詳細はHP等で確認をお願いします。
【参加費・宿泊】
大会参加費は無料です。予稿集は印刷版の配布・販売を行いません。事前に予稿集を電子データ(PDF)で参加者に配布いたします。宿泊については各自での手配をお願いします。長岡市では秋に各種のイベントが多数予定されており、混み合うことも予想されます。早めのご予約をお願いします。
【アクセス】
会場のアオーレ長岡へは、上越新幹線「長岡駅」から徒歩約3分です。大手スカイデッキを使えば雨に濡れることなく会場までいけます。周辺に飲食店、コンビニエンスストアもありますし、アオーレ長岡でイベントも予定されておりますので、昼食や飲み物は現地で調達できます。